MAGURO 2026-2
THREE DECKS, ONE FISH
一尾のクロマグロを巡る、三つの釣り座
同じ魚に向かってロッドを構えていても、立っているデッキが日本か、北米か、欧州かで、見えている景色はまるで違う。クロマグロ遊漁のリアルな現在地を調べてみました。
こんにちは。
僕たちは、玄界灘や北海道でクロマグロを追いかけていると、どうしても避けて通れないのが「ルール」や「レギュレーション」の話ですよね。クロマグロはアングラーにとって、いつか真っ向から向き合いたい「頂点のターゲット」です。しかし今、この魚は世界中の釣り人にとって 釣る対象であると同時に、複雑な「制度と向き合う対象」になってしまっています。
今回は少し視点を変えて、考えてみたいと思います。日本、北米、精度ヨーロッパ(英国)。この三つの海のアングラーたちが、いま実際に何を背負って竿を出しているのか。見えてきたのは、単なる「規制の厳しさの差」ではなく、僕たち釣り人が管理の中で “どう扱われているか” という、もっと根の深い違いでした。
JAPAN 自由だった海に、ある日ルールが降ってきた
日本のクロマグロ遊漁を語るとき、まず押さえておきたいのは「つい最近まで何も規制がなかった」という事実です。遊漁船もプレジャーボートも、制限は事実上ゼロ。佐渡沖や日本海をはじめ、群れを狙って多くの釣り人が当たり前に竿を出していました。
しかしその海に、2021年6月、広域漁業調整委員会指示という形で突然ルールが。現在、釣り人の立場から見た主なルールは以下の通りです。
現在の日本の主なルール
- 30kg未満(シビ・ヨコワ・メジを含む)は採捕禁止。釣れてしまったら直ちにリリース。
- 採捕禁止期間中は、狙ったキャッチ&リリースそのものが禁止。他魚種を狙っていて不意に掛かった場合(キハダ狙いでクロマグロがかかってしまったパターンなど)のみ、即リリースが許される。
- 大型魚(30kg以上)のキープは厳格に制限。期間ごとのバッグリミットが設定される。
- 報告義務。重量・尾叉長・海域・陸揚げ場所を、スマホやLINEから証拠写真付きで報告。
- 2024年からの届出制。遊漁船業者等に対し、クロマグロ遊漁の承認・届出制がスタートし、徐々に管理の枠組みが強化されています。
この制度のおかげで劇的なクロマグロ資源回復、制度運用からわずか5年の2026年現在、各地でモンスターマグロの回遊が目撃されることになった事実。以前は青森以外の海域では想像すらできなかったモンスターマグロが接岸。僕たち釣り人全員がその目撃者となっています。
僕たちの本音は、制度が始まった当初のこの一言に凝縮されています。「せめてキャッチ&リリースでの釣りは認めてほしい」。資源保護のためという理屈は理解できても、釣り味そのものを否定されたような感覚が残ります。
ここでの本質的な問題は、罰則の重さではありません。日本の漁業法には海の「遊漁」を位置づける枠組みが薄く、元より僕たち釣り人がステークホルダーとして制度設計の席に着く土台がなかったのです。だからルールは「協議」ではなく「通達」としてある意味一方的に上に決められます。「獲り手」としての文化はあっても、「守り手」としての制度がなかったツケが、一気に表面化しているのが日本の現状です。制度を出す側も5年の手探りを続けています。しかしながら資源回復という大きな結果には手応えを感じているのではないでしょうか?
NORTH AMERICA ―― 生まれたときから「許可制度の海」
大西洋を渡りアメリカへ行くと、釣り座の前提が根本から変わります。米国でクロマグロを狙うなら、NOAA(海洋大気庁)のHMS(高度回遊性魚種)許可証が船に必須です。陸からの釣りには許可証という選択肢すら存在せず、違反すれば初回でも2,000ドルの罰金なんですよ。
その代わり、ルールは驚くほど具体的で、釣りの現場に浸透しています。
アメリカの具体的なルール
- キープサイズは尾叉長で約69〜185cm。185cmを超える大物は「トロフィー」区分で、船あたり年 1尾まで。
- バッグリミットは「船・1日あたり」で計算。釣り人 1人あたりではなく、船で数える文化。
- 保持・死亡個体は24時間以内に報告。
- タグ&リリース/キャッチ&リリースが制度化。リリース時は魚を水から出さないことが前提。放流個体にもタグを打ち、検証用のデータとして還元する。
ここでの釣り人は、管理の「対象」ではなく「カウントされる構成員」です。レクリエーション枠(遊漁枠)という名の自分たちの取り分があり、トロフィー 1尾という分かりやすいご褒美があり、報告とタグ付けを通じて資源評価に貢献します。商業も遊漁も同じ枠組みのなかに置かれ、釣り人は数字の一部として最初から組み込まれているようです!
EUROPE / UK ―― 「釣らせろ」と声を上げた釣り人たち
最もドラマチックなのが英国です。もともと英国海域でのクロマグロ狙いは違法でした。しかし2015年前後から、大量のクロマグロが秋の近海に戻ってきたのです。目の前にモンスターマグロがいるのに竿を出せない状況。そこで動いたのは行政ではなく、なんと釣り人自身でした。
一握りのアングラーが政治家や科学者を巻き込み、合法的スポーツフィッシャリーを設計。2021年に「CHART(キャッチ&リリース・タグ放流)」という研究プログラムが始動し、釣り人が獲るのではなく「釣って・計測して・タグを打って・放す」ことでデータを科学的に検証する仕組みを作り上げました。
Reddit や英国釣り人団体がついに動き、英国は本格的なキャッチ&リリース専用の遊漁(C.R.R.F.)解禁へ踏み出しました。※ Catch & Release Recreational Fishing
英国(UK)の最先端ルール
- 完全キャッチ&リリース。陸揚げ・移送・水から出すことは一切禁止。
- 許可制の導入。許可は船単位。
- 全トリップを24時間以内に報告。なんとボウズ(0尾)でも報告が必須!
- 行動規範(Code of Conduct)と訓練。ファイト時間の最小化、水中での十分な蘇生など、魚の福祉(生存率)が最優先される。
ここで注目すべきは、釣り人の団体が政府と並んで制度設計のテーブルに着いている点です。釣り人が「規制される側」ではなく、「漁業を生み出した側」であり、データによる生態系保全の共同運営者になっています。英国は僕たちが参考にすべき事例ではないでしょうか?
THREE SEATS, COMPARED ―― 同じ竿、違う椅子
厳しさの順位を競っても意味はありません。調べてみればどの海も決して甘くはないのです。違うのは座る「椅子の種類」です。
日本の釣り人は「管理される椅子」に座らされ、北米の釣り人は「数えられる椅子」に座り、英国の釣り人は自ら「つくった椅子」に座っています。同じクロマグロを掛けても、その一尾が制度のなかで持つ意味がまるで違うのです。
| 釣り座の視点 | JAPAN (日本) | NORTH AMERICA (米国) | EUROPE (英国) |
|---|---|---|---|
| 出発点 | 無制限 → 突然の規制 | 当初から許可制 | 違法 → 釣り人主導で解禁 |
| 釣り人の位置づけ | 管理の「対象」 | カウントされる構成員 | 制度の「共同運営者」 |
| C&R(キャッチアンドリリース) | 狙ったキャッチアンドリリースは禁止期間あり | タグ&リリースを制度化 | 完全C&R+タグでデータ化 |
| 報告義務 | キープ分/写真添付 | 24時間以内(保持・死亡分) | 全トリップ(ボウズでも) |
| 釣り人団体の関与 | まだ組織的な席が薄い | 枠配分に組み込み | 政府と協議する当事者 |
THE PATH FOR JAPANESE ANGLERS ―― 釣り座から描く、これからの航路
わずか5年で劇的に回復したクロマグロは、僕たちアングラーにとって本来うれしいニュースのはず。それが「資源回復に反比例して規制が厳しくなる」という憂鬱とセットで語られてしまうのは、釣り人が管理の話の常に外側に置かれてきたからにほかなりません。釣り座の視点から見えた、慎重に語るべき道は
1. 「対象」から「共同運営者」へ
釣り人がステークホルダーとして席に着けば、規制は “通達” から “合意” に変わります。大手釣具メーカー、釣り団体・遊漁船・科学者・行政が同じテーブルで設計する枠組みづくりが、何より先に必要です。
2. キャッチ&リリースを敵にせず、科学に変える
「狙ったキャッチ&リリースすら禁止」という現状は、釣り人の納得を得にくいものです。英国のCHARTのように、リリースを “データを生む行為” として制度に組み込めば、釣り人は資源回復の貢献者になれます。
3. 報告を「監視」から「参加」へ
スマホやLINEで送れる日本の報告の仕組みは、技術的には進んでいると感じます。あとは、それが取り締まりのためではなく、自分たちの釣り場を守るためのものだという物語を共有できるかどうかです。
4. 「リリースの文化」を自分たちの手で
誰かに獲り上げられる前に、僕たち釣り人自身が守り手の文化を育てる――その積み重ねが、最終的に私たちの大切な釣り座の自由を守ってくれます。いまはマグロに例えての議論になっていますが、すべての水産資源とレクリエーショナルフィッシングについての議論をすすめるべき時が来ているのではないでしょうか?他に例えれば琵琶湖のブラックバス問題などが一番わかりやすいかもしれません。
クロマグロが戻ってきたこの海で、次に試されるのは魚の数ではなく、私たち「釣り人の成熟」かもしれません。船上デッキの上から見える景色は、制度の写し鏡でもあります。日本のマグロアングラーが率先して「つくった椅子」に座る日が来れば、回復のニュースは、ようやく手放しで喜べるものになるはずです。これからもアンバージャックは、現場でキャストを続けながら、未来の海のあり方を皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。