玄界灘クロマグロ
The Future
of Tuna Game.
玄界灘クロマグロ釣行は突然の採捕中止、僕たちが考える「オールリリース」という選択肢。
June 7, 2026 / By AMBERJACK玄界灘でのクロマグロ釣行。心待ちにしていたその日は、令和8年6月3日から6月30日までの「採捕禁止」によって、呆気なく白紙になってしまいました。正直、大変ショッキングな出来事で、唖然としています。
月に1日か2日、海に出られるかどうかという遊漁の世界において、この唐突なシャットダウンは本当に重い。水産庁や他の省庁の対応を見ていると、「日本はどうかしているんじゃないか」と思わざるを得ない場面があります。水産庁、漁業者、そして僕たち釣り人の間で、現場感のある建設的な議論が十分に見えにくい。だから、なぜダメなのか、誰も心の底から納得できないまま不満だけが溜まっていく。クロマグロの問題に限らず、消費税問題、ナフサ問題など、挙げたらキリがありません。
オールリリースでのマグロゲームへ
ただ嘆いていても現状は変わりません。そこで今回、私たちが提唱したいのはプラティコなどの専用リリーサーを用いて船縁海中での「オールリリースでのマグロゲーム」という取り組みです。
ここでいうオールリリースは、あくまで法令・届出・採捕可能期間を守った上で、将来的に釣り人が資源管理に協力していくための選択肢として提案するものです。日本の現状と、世界の最前線である大西洋・北米の今のルールをリサーチし、比較してみました。今後の僕たちの海と釣り環境をどう守っていくか、考える上での参考にしてみてください。
PHOTO by TATSUYOSHI NEGI
釣り人のロマンであり、海のダイヤ。この圧倒的な魚体を未来に残すため、僕たちはどう動くべきか。
Recovery and Beyond / 回復のその先へ
大西洋に学ぶ、太平洋クロマグロ管理の「次の一手」
実は、太平洋クロマグロ(本マグロ)の資源回復は、世界の漁業管理における稀有な成功物語とも言えます。2010年に初期資源量のわずか1.7%まで落ち込んだ親魚資源量は、2022年には約14万4,000トンへ。2010年のおよそ10倍に増え、初期資源量20%水準の回復目標を当初想定より大幅に早く達成しました。WWFジャパンは、この達成を「13年前倒し」と表現しています。
だが、ここで安堵してはいけません。資源が戻った今こそ、「どう獲り続けるか」という管理の質が問われる局面に入っていると思う。そしてその物差しで太平洋を測ると、大西洋(欧州と北米)の管理体制との間に、無視できない大きな差が見えてくるんです。両海域のレギュレーションを比較し、回復を一過性の幸運で終わらせないために日本が進むべき道は。
The Atlantic Model / ルールが数字を決める世界
大西洋クロマグロを管理するのは、ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)です。2025年11月にスペインで開かれた年次会合では、2026〜2028年の新たな漁獲可能量(TAC)が決まりました。西大西洋は3,081.6トン、東大西洋・地中海は48,403トンで、それぞれ前期比13%、19.3%の増枠です。米国の商業・遊漁向け年間枠も、2026年に約191トン増える見通しと報じられています。
ここで注目すべきは増枠の「中身」ではなく「決め方」です。大西洋クロマグロには、すでにMSE(管理戦略評価)に基づく管理手続き(MP)が導入されています。これは、事前に合意した管理手続きに沿ってTACを算出するルールベースの仕組み。資源が悪化したときに「枠を減らせない」という政治的膠着に陥りにくいのです。
さらに大西洋では、CDS(漁獲証明制度)が稼働しています。いつ・どこで・誰が・どれだけ獲ったかを示す証明書で、国際取引や輸入を中心にトレーサビリティを担保し、違法・無報告・無規制(IUU)漁業を市場から締め出すことを狙う仕組みです。獲る側のルールと、流す側のトレーサビリティ。この二段構えが、大西洋型管理の骨格というわけです。
MOVIE by TATSUYOSHI NEGI
On the Water in North America / 釣り人にもパーミットを
北米の海での管理の厳格さは、商業漁業だけでなく遊漁(レクリエーション)の現場にも及んでいます。米国で船から大西洋クロマグロを狙う場合、NOAA(米国海洋大気庁)のHMS(高度回遊性魚種)許可証が必要です。米国の制度は、許可を受けた船舶を中心に、サイズ、尾数、海域、報告義務を細かく管理する仕組みになっています。
- キープ可能サイズ:尾叉長27〜73インチ(約69〜185cm)。73インチ以上は「トロフィー」区分で、船あたり年1尾まで。
- バッグリミット:2026年6月1日以降、プレジャーボートは1日(1トリップ)あたり2尾、チャーター船は3尾。いずれも「船あたり・1日または1トリップあたり」で、47〜73インチ未満の大型寄りサイズはそのうち1尾まで。
- 産卵場の保護:メキシコ湾は産卵海域として、クロマグロの狙い撃ちが全面禁止。
- 報告義務:保持または死亡個体は、水揚げから24時間以内に報告。
- リリース文化:キャッチ&リリース/タグ&リリースが制度化され、放流時は魚を水から出さず、生存率を最大化する扱いが求められます。船縁で速やかにリリースするためのプラティコなどの専用リリーサーなども、こうした考え方により開発されたリリース専用の道具です。
許可・サイズ・尾数・場所・報告。釣り人一人ひとりの行動が、しっかりと資源管理の数字に組み込まれているのです。
The Pacific Picture / 回復は本物、しかし管理は道半ば
太平洋クロマグロはどうでしょう。WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の下、日本も主要な漁獲国・消費国として資源管理に深く関わり、劇的な回復はネイチャー・ポジティブの好事例としても評価されました。ところが、ここからが問題です。
第一に、ルールベース化の遅れ。
2025年7月に富山で開かれたWCPFC北小委員会では、MSEに基づく中長期的な漁獲戦略を合意する予定でしたが、合意に失敗し、議論は持ち越しとなりました。大西洋ではすでに管理手続きが動いている一方、太平洋クロマグロではMSEに基づく漁獲戦略がまだ合意・運用されていません。増枠は決まるのに、それを律する自動ルールが未整備で、管理は今なお会合ごとの交渉に大きく左右されています。
第二に、IUU(違法・無報告漁業)の影。
近年、日本国内でクロマグロの未報告漁獲が相次いで発覚しました。水産庁は国内法を強化しましたが、国内措置だけでは海外での未報告は防げません。太平洋クロマグロにもCDS(漁獲証明制度)を導入する構想は日本主導で検討されており、2025年の会合では仕様書の完成など前進がありました。ただし、WCPFCとIATTCという2つの地域漁業管理機関にまたがる運用となるため、実際の運用はこれからです。
第三に、遊漁管理の後追い。
日本でも2021年6月から広域漁業調整委員会指示による遊漁規制が始まり、2026年(令和8年)4月からはバッグリミットが「1人各期間1尾」に絞られ、届出制も導入されました。北米のパーミット制が長年機能してきたことを思えば、ようやくスタートラインに立った段階と言わざるを得ません。
Two Oceans, Compared / 何が違うのか
資源量という「結果」では太平洋が大きく巻き返しました。しかし、結果を支える「仕組み」では、大西洋が一歩も二歩も先を行っています。回復は規制の成果であって、規制が緩んでよい理由にはならないようです。この当たり前を制度に落とし込めているかどうかが、両者の本質的な差かもしれません。
| 観点 | 大西洋(ICCAT/欧州・北米) | 太平洋(WCPFC/日本) |
|---|---|---|
| 漁獲枠の決め方 | MSEに基づく管理手続きでTACを算出 | 会合ごとの交渉ベース、MSEに基づく漁獲戦略は未合意・未運用 |
| 流通の追跡 | CDS(漁獲証明制度)が稼働 | 仕様書完成など前進、2機関にまたがる実運用はこれから |
| IUU対策 | 国際取引を中心に追跡し、市場から排除する仕組みを整備 | 国内法を強化、未報告漁獲の発覚を受け監視強化が課題 |
| 遊漁管理 | パーミット制・サイズ・尾数・報告が確立 | 届出制を導入する初期段階?? |
| 資源の現状 | 回復・安定 | 劇的に回復(初期資源量20%水準の回復目標を達成) |
The Road Ahead / 僕たちが進むべき道
回復国であり、消費国であり、管理主導国である日本には、この回復を「守り切る」重い責任があります。調べて見えてきた、僕たちが進むべき道は??
- MSEと漁獲戦略の早期合意: 先送りをやめる。資源が悪化したときに自動でブレーキがかかる仕組みを、政治的な好況のうちに合意しておくことが、過去の乱獲を繰り返さない最大の保険になります。
- CDSの導入完遂とIUUの根絶: 「証明できないマグロは流通させない」状態をつくる。これはクロマグロの最大消費国・日本が自らの市場の正当性を世界に示す手段でもあります。
- 遊漁管理の高度化: 水産庁への登録、届出制導入を通過点とし、釣り人一人ひとりの採捕・リリースをタグ打ちなどで資源データに反映される体制へ。北米の事例は、釣りなどのレクリエーションを敵視するのではなく、管理の協働者として制度に取り込めることを示しています。
- 発想の転換: 「増枠=勝利」から「持続性=価値」へ。獲れる量の多寡ではなく、ルールに基づいて獲り続けられること自体を成果と評価する文化へ。僕たちの提唱する「オールリリース」も、採捕禁止期間中は狙わないという大前提を守ったうえで、将来の遊漁管理に釣り人が参加していくための発想の転換に基づいています。
年々サイズアップして300kgを超える個体も各地で見られる様に。日本沿岸での劇的なクロマグロの回復は、世界に誇れる物語です。だがその物語の続きを書くのは、増えた数字に浮かれることではなく、増えた今だからこそルールを整えるという、地味で本質的な選択にかかっています。大西洋という鏡は、その選択をもう先送りにできないことを、静かに教えてくれている。海と釣りを愛する僕たちは、この事実から目を背けてはいけないと思うのです。
Reference / 参照情報
本記事は2026年6月時点で公表されている情報に基づいています。実釣の際は必ず水産庁等の最新の告示を必ずご確認ください。
- ICCAT勧告および年次会合: ICCAT、NOAA、National Fisherman、On The Water、The Fisherman ほか
- NOAA Fisheries: HMS 遊漁規制・許可証・サイズ・バッグリミット・報告義務
- WCPFC北小委員会: 2024年釧路合意/2025年富山MSE合意持ち越し(WWFジャパン、IUU FORUM JAPAN)
- 太平洋クロマグロ資源回復データ: 水産庁資料、WWFジャパン声明(2022年=約14.4万トン、初期資源量20%水準の回復目標達成)
- 日本の遊漁規制とIUU対策: 水産庁「クロマグロ遊漁の部屋」、届出制、採捕報告、漁業法改正、水産流通適正化法等のIUU対策
PROTECT OUR OCEAN
2026 AMBERJACK / The Amberjack Journal